ファティマタセネガル物語は2004年にファティマタが経験したノンフィクションストーリーです。
日本人初のセネガルツアー主宰者
翌年、私はセネガルツアーを主催した。
日本人が主催するセネガルでのサバールダンスワークショップは私が始めてだった。
チラシを作り、募集をかけ、3名の参加者が集った。
ツアーにしては少ない人数だが、初回ということもあり、私には充分だった。
初めてのツアーで緊張していた私は準備期間としてツアーが始まる3週間前にセネガルに入り準備をすることにした。
参加者はセネガルの空港に現地集合してもらう。
それまでに、私は現地でワークショップの準備を整え参加者が来る時間に合わせて車を手配し、迎えに行く。
そういう段取りだった。
その当時の日本とセネガルの連絡手段は、SkypeやFacebookのような便利なものではなく、国際電話か、いつ見てもらえるかわからないフリーメールだった。
セネガルでは、わざわざインターネットカフェにいかないとメールボックスを開く事は無い。
だから、現地のワークショップの開催の段取りは現地に行ってしまうのが、一番手っ取り早かった。
そういうこともあり、3週間という準備期間を設けた。
自分の行く日取りが決まると、ヤマに到着の便と時間をメールで伝えた。
しばらく経ってから、ヤマから「空港まで迎えに行く。」との短い返事があった。
これでとりあえずは、一安心。
でも、ひとつ気にることがあった。
ヤマに預けた私のケータイが、ある日を境に突然繋がらなくなっていたのだ。
再びセネガルへ出発
私は年明けすぐの便を手配した。
去年はいろいろあったが、今回はベンジーやヤマ、ビンタがいるから心配はないだろう。
そんな気持ちで成田空港に向かった。
空港につくと去年のことを思い出した。
去年と今では心持ちが全然違う。
あの時よりはちょっとは強くなっている。
長い長い空路を経て、ようやくダカール空港に到着すると、その懐かしい匂いに今までいろいろ心配に思っていた小さなことが、一気にふっ飛び、ワクワクし始めた。
やっぱり自分はなんだかんだ言ってもセネガルが好きみたいだ。
セネガルは真夜中。
迎えに来くるはずのヤマの顔を見るまでは、まだ落ち着かない。
こんな夜中でもダカール空港は迎えに来ている人たちでごった返していた。
ヤマとの再会
ヤマを探すのは一苦労だろうな。
女の子は髪型で印象が変わるから。
そんな心配をしながら空港の表に出ると、そんな心配をよそに手を振っているヤマがすぐ目に入った。
相変わらず、ヤマはヤマだった。
私はクスっと笑い、ヤマの方まで歩いて行くと、ヤマは挨拶しながら私のスーツケースを引っ張りタクシー乗り場へ移動した。
私たちの再開は感動的なオーバーアクションは一切なく、まるで昨日も会っていたかのように当たり前のように流れた。
どんなシチュエーションでもクールなヤマ。
私はヤマに1番気になっていることを話しかけた。
「私のケータイは?」
ヤマはしばらく黙ってから答えた。
「ないよ。」
ない?
ないと言われても困る。
あるものと思って、私はケータイを用意して来なかった。
あれだけ約束したのに、上がりかけていた私のテンションをいきなりポキっと折られた。
セネガルに来て第一回目のイラつきがこんなに早く来るとは。
ヤマは私のムっとした顔に気づき「あとで説明するから。」とフォローをした。
私たちが向かう家はベンジーの家だった。
しばらくすると、タクシーが見知らぬ場所で止まった。
「着いたよ。」
ベンジーの新しい住まい
ヤマはタクシーを降り、私の荷物を建物の中に運び出した。
ベンジーはメルモズというところに引っ越していた。
ヤマがドアを開けると、そこにはベンジーが両手を広げて立っていた。
「ようこそ!セネガルへ!」
そのオーバーアクションでコミカルな様子は去年と相変わらずいつものベンジーだったが、去年よりげっそり痩せこけていた。
私たちはハグをして再会を喜んだ。
「君が、セネガルにいる!僕の目の前にいる!こんなこと信じられるかい?」
ベンジーのオーバーすぎるほどの歓喜ぶりがおかしく、長旅の疲れを一気に忘れさせてくれた。
その騒ぎに、奥の部屋から女の人が「なにごとか」といった顔で、寝ぼけ眼で出て来た。
その人はとても容姿がよくかわいらしい女性だった。
ベンジーが彼女の肩を引き寄せ私に紹介した。
「フィアンセのウミだ。今、一緒に暮らしている。」
ウミは髪型を整えて、私と握手を交わした。
そして改めてお互いの自己紹介をしあった。
ウミは笑顔がかわいく、清楚で礼儀正しい印象だった。
日本人のことが珍しいのか、私のことを好奇心の眼差しでジっと見ていた。
ベンジーは私が寝泊まりする部屋を案内してくれた。
そこは、ガランとしていて大きめのマットがひとつ置いてあった。
ウミとベンジーはベンジーの部屋でひとつのベッドに寝ていた。
ベンジーがメルモズに引っ越してからは、ヤマが住んでる所から遠くなり、以前のように簡単には通えなくなった。
ヤマはその日は、私の部屋に泊まることになった。
ベンジーは「明日仕事だから」、と私に合掌して深く頭を下げた。
私も同じように合掌して頭を下げた。
ウミがそのやり取りを不思議そうに見ていると、ベンジーウミに「ジャパニーズスタイル」と説明し、2人は部屋に戻って行った。
ヤマとの生活スタート
ヤマと私が部屋に二人きりになると、ヤマは寝っころがりながら私に言った。
「私、用心棒としてこれからもずっとここに寝泊まりするよ。その方が安全だから。」
去年あんなに一緒にいたヤマだが、そういえば私たちは同じ部屋に寝泊りすることは今までなかった。
隣でヤマが寝ているのを見ると、なんだか不思議な感じがした。
いくらヤマでもずっと一緒の部屋で過ごすことが果たして100%安全なんだろうか?
そんな不安もよぎったが、主人はベンジーだし、フィアンセもいい人そうだし、この家で危険なことはなにもないだろう。
そこで私は質問した。
「私のケータイ、どうしたの?」
ヤマは座り直して説明した。
「ケータイは大事に使ってたよ。だけどベンジーが仕事がなくなって、お金がどうしても必要になった時にそのケータイ売っちゃったんだ。」
「それ、本当?」
疑いの目でヤマを見つめると、ヤマは強い口調で言い返した。
「ベンジーから新しいケータイを買うようにお金預かっているから、明日ケータイ買いに行くよ。」
なんともよく分からない話しだったが、私は旅の疲れもあり、あれこれ聞き出す気も起きずそのままマットに横になった。
私たちは寝そべりながら少し会話をし、知らない間に眠りについた。