2004年の体験記|WordPress版公開:2014年7月24日

二人だけの愛の素へ

ゼイヌは私のスーツケースを手に取るとそれを引っ張り、タクシー乗り場へ向かった。

今から私たちが住むアパートに向かう。

観光客である私の姿を見ると、タクシーマンたちがらわらわら集まって来た。

値段交渉する前からタクシーマンたちは、私の荷物をたぐり寄せ、タクシーに積め込もうとする。

ゼイヌが止めにかかると、また別の方から手が出る。

ゼイヌが少し強めの口調で言ってもタクシーマンたちの勢いは止まらない。

しまいにはゼイヌとタクシーマン数名で言い争いが始まった。

国民性なのかは分からないが、セネガル人は急に熱くなることがあるようだ。

言い争いと言っても、どっちのタクシーに乗るのかというそういう次元である。

要するにケンカ越しの値段交渉。

ようやく決着がついたのか、諦めた顔をしたタクシーマンたちがその場を散っていった。

値段交渉に勝ち抜いたタクシーマンが得意気な顔をして、私のスーツケースをタクシーのトランクに積み込んだ。

ゼイヌは後部座席のドアを開けて私に乗り込むよう目配せした。

私は小さなバッグを胸に抱えて後部座席に乗り込んだ。

ゼイヌがドアを閉めて助手席に回ると、ゆっくりタクシーは走り始めた。

ヒビだらけのフロントガラスに雑音まじりのラジオ。

音が聞こえなくなると、タクシーマンはガンっとひと叩きしてまた復活させた。

さっきまで熱くいきり立っていたタクシーマンは今度はご機嫌にラジオに合わせて鼻歌を歌い、ゼイヌと陽気に世間話を始めた。

ゼイヌも笑って話している。

これがセネガルだ。

住宅地に入ると砂地になり、タクシーはザクザク音を立てながらのろのろ進む。

ようやく見慣れた風景に入ってきた。

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ゼイヌの勤めるシーベルを通り過ぎた。

彼はすかさず助手席から後ろを振り返り「ほら」と言わんばかりにシーベルを見ながらあごをチョンと上げた。

去年、私たちが再会の約束を交わした場所。

門番のおっちゃんが私たちに気づき、顔を起こして手を上げた。

私も窓をバシバシ叩いて合図した。

「帰って来たよ!」

間もなくしてタクシーが止まった。

「ここだよ。」

街灯がほとんどなく、暗くて外観はよく分からないが、私たちの住むアパートへ到着した。

私たちが一緒に住む愛の巣だ!

心が踊る。

ゼイヌはタクシーマンにお金を払うと、私のスーツケースを持って階段を上がって行った。

私も後を追った。

薄暗い階段を一段一段踏みしめながら、ワクワクドキドキがはち切れそうになっていた。

彼は3階まで上がり廊下の奥の部屋で荷物を下ろした。

「ここ。」

部屋の明かりがつけっぱなしだったのか、ドアの隙間から中の明かりがこぼれていた。

ゼイヌがドアを開けると、奥から両手を広げた男が満面の笑みで近寄ってきた。

「ようこそぉ!セネガルへ!」

まさかの居候

えっ!誰こいつ!

「僕はベンジー。君のことは聞いてるよ。長旅は疲れたでしょ。さ、さ、中にどうぞどうぞ。君たちの部屋はここだよ。」

と、ベンジーとか言う男が慣れ慣れしく私のバッグをひょいと担いで奥の部屋に入って行った。

「ここは君の家だと思って遠慮なく使ってくれ。なんか飲むかい? おっと、これは僕のカップだ。あ、気にしないで、ここに置いてあるのは僕のクローゼットだけど、服を取りに来るときは君たちの邪魔にならないようにするからさ。」

彼は私にウィンクしながらアメリカ人のような軽快なオーバーアクションで説明し始めた。

ゼイヌが連れて来た場所は、彼の友達、ベンジーが住んでいるアパートだった。

有無も言わせず今日から彼と一緒にホームステイが始まってしまった。

ベンジーはラジオ局で働くサラリーマン。

アパートにはベンジーの他にアブライという男性が居候していた。

アパートと言っても4つ部屋があり、ひとつはテレビが置いてある共有スペース。

あとの3つがプライベートの部屋になっていた。

アパートの主であるベンジーは自分が利用していた一番広い部屋を私たちのために空けてくれた。

私たちはそこへ案内されたのだ。

しかし、大きなクローゼットやベッド、鏡台などはベンジーが使用している物がそのまま置いてあった。

扉を開けるとベンジーの私物がまだ入っていた。

私たちが滞在している間はベンジーはとなりの小さな空き部屋を使うことになった。

私がずっと想像していた愛の巣が、大幅に食い違っている。

とりあえず、私はセネガルに着いた興奮とゼイヌに再会できた喜びを台無しにしないよう、余計なことは考えないようにした。

ベンジーは冷蔵庫から人数分のビールを運んで来て、私たちに1本ずつ差し出した。

セネガルに来て、セネガル人からビールをもてなされたのは初めてだった。

しかも、敬虔なムスリムだと思っていたゼイヌがビールを手に取ったことにびっくりした。

ゼイヌは「内緒だよ!」とウィンクして、ビールを飲みだした。

「ここはフリーだ!」

突然、ベンジーは両手を横に大きく開いて笑った。

そしてベンジーは早々とビールを飲み干し、「どうぞごゆっくり」と私たちに手の平を差し出して私とゼイヌを残し、部屋を出て行った。

残された私たちはビールを片手にベッドに腰掛け、空白だった時間を少しずつ取り戻すようにお互いの話しを始めた。

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