2003年の体験記|WordPress版公開:2014年7月11日

決戦はまさに今!

帰国まであと2日。

このままゼイヌに自分の気持ちを伝えず帰ったら、彼は一生私の気持ちを知らないままだろう。

それでいいのか?

それで、、いいのか?

自問自答を繰り返した。

今年が最後のセネガルになるなら、好きになってしまったゼイヌにその気持ちを伝えて帰ったってバチは当たらない。

大きく深呼吸して、ゼイヌの方を見た。

「あの、私…」

全くシミュレーションをしていなかったせいで、次の言葉が出てこない。

ゼイヌは私の声に気が付かず立ち上がった。

「そろそろ、帰ろっか。」

気がつけばもう何時間もここにいる。

ゼイヌは入り口の方へ歩きだした。

私はゼイヌの後を追いかけた。

クラブの外に出ると、空はまだ真っ暗だった。

セネガルの朝日は遅い。

ゼイヌはタクシーを捕まえた。

中腰になり窓越しにタクシーの運転手と値段の交渉をしている。

このままだと今日が終わってしまう。

ゼイヌは行きの時と同じ様にタクシーの後ろのドアを開けてくれた。

私たちは並んで後部座席に乗り、明るい繁華街からシーベルのある静かな住宅地へ戻って行った。

車のライトが連なる夜の交差点

だんだん焦ってきた。

「えっとぉ、えっとぉ」。

ゼイヌとしゃべる時の私の口癖だったらしい、彼は私のマネをした。

「エットォ、エットォ」。

好きです系の言い回しはセネガルに来てすぐに覚えたウォロフ語なのに、肝心な時に出て来ない。

私の様子がおかしいのを察したのか、ゼイヌが「どうしたの?」と覗き込んできた。

さらに心拍数が上がり、息が詰まる。

肝心なその一言を言ってしまえばいいだけなのに、その一言が言い出せない。

タクシーがシーベルの前に止まった。

私たちが待ち合わせした場所。

街灯に照らされた夜の住宅街

そしてこんどは私たちがバイバイする場所。

タクシーを降りると、シーベルの前にはいつもの門番のおっちゃんがいた。

おっちゃんは夜になると現れ、建物の前に椅子を出して座る。

それがおっちゃんの仕事。

私の相談相手でもあった。

おっちゃんは私の緊迫している状況に気づいていた。

そして私と目が合うなり微笑んで深くうなずいた。

あれはおっちゃんのイケというGOサイン!

背中を押された気がした私は遂にゼイヌに告白した。

「マン   ダマ ラ ノップ・・・」

言ってしまった。

「愛してます」なんて日本でも使わないのに。

ラブストーリーは突然に

突然、ゼイヌの動きが止まった。

「・・・・・・・。」

たのむ、何か言ってくれ。

「それ、本当なの?」

ゼイヌは相当驚いている様子だった。

この状況で誰が嘘をつくだろうか。

「何でもっと早く言わないのっ!」

何でもっと早く言う必要があるのだろうか。

「君はあさってには帰ってしまう。」

だから言ったのだ。

「僕も君のことが好きだった。」

・・・・・・・・・。

暗い空に光る街灯

今度は私の時が止まった。

彼が言ったことを頭の中でゆっくりリピートした。

これは、夢か幻か。

「もっと滞在を延ばせないかな?」

そんなの今さら無理だ!

ゼイヌは私との交友関係を壊すのが怖くて自分の気持ちを打ち明けなかったと言う。

そんなふうに遠慮するセネガル人もいるのか?

恋愛をしないという強い信念でセネガルに来た私だったが、今となってはその信念が悔やまれてならない。

私はもっと長く彼との時間を過ごしたかった。

私たちは、近くにあるベンチへ移動し腰掛けた。

「君は日本に彼氏はいるの?」

私が出会ったセネガル人は初対面でも平気でこの手の質問をするが、ゼイヌからこの質問をされるのは初めてだった。

「いない。」

「君はまたセネガルに帰って来る?」

帰ってくる・・・・。

よそ者である日本人にとって現地の人からそのように言われることはたまらなく嬉しかった。

「いいえ・・・。」

でも、私の気持ちは揺れていた。

「もし良かったら僕の彼女になってもらえないかな?」

この期に及んでの、ゼイヌからまさかの告白だった。

「はい。もちろん!!」

あまりに嬉しくて、お尻が浮いていたかもしれない。

「来年またセネガル来てくれる?」

ゼイヌはもう一度私に聞いた。

「は、はい。」

その時、私の目に入ったおっちゃんの後ろ姿が「めでたし、めでたし」とうなずいているように見えた。

私たちはまた話し出した。

今度は二人の近い未来について。

来年私がセネガルに来たらゼイヌも仕事を休んで私と一緒にバカンスする。

そしていろんなところに遊びに連れて行くことを約束した。

いろいろ嫌な思いもしたセネガルだったのに、帰るのが突然寂しくなった。

このまま時間が止まって欲しい。

ゼイヌは今日も朝からシーベルの仕事がある。

このままだと休む間もなく仕事の時間を迎えてしまう。

「私、今日はもう帰るね。」

私は立ち上がった。

私の住むアパートはシーベルの裏、歩いて1分くらいの所にあった。

いつもならここから一人で帰るのだが、今はもう違う。

ゼイヌも一緒に立ち上がった。

「送るよ。」

心構え完了

1、私の帰国はあさって。

2、私は誰もいないアパートに帰る。

3、今、私たちはカップル。

4、そして、大人。

これだけの条件が揃っていれば次に起こる展開はもう決まっている。

このまま自然の流れに任せよう。

私は高ぶる気持ちを必死に抑え、落ち着き払ったそぶりで心の準備をした。

アパートの入口、私は振り返ってゼイヌの顔を見上げた。

ゼイヌは足を止めて私に言った。

「じゃっ、おやすみ。」

ゼイヌは優しく手を振っている。

・・・あ、あれっ?

ゼイヌが見送る中、私は後ろ髪を引かれる思いでアパートの方を振り返り階段を上った。

拍子抜けするほどなにか期待が外れた。

この展開・・。

私たち、カップルだよね?

最高に幸せのはずなのだが、いまいちなんだかスッキリしない。

こうなったら何がなんでも来年セネガルに来ないと私の気が済まない。

この時点で来年のセネガル行きは私の中で100%確実なものになった。