ファティマタセネガル物語は2004年にファティマタが経験したノンフィクションストーリーです。
ビーズのブレスレット
ヤマが家に帰った後、私はパッキングのつづきを始めた。
すると誰かが部屋をノックした。
ドアを開けると、そこにはビールを2本持ったベンジーが立っていた。
「飲まないか?」
最近、心配顔のベンジーしか見てなかったが、今日は初めて会った時のように笑っていた。
私も笑って大きくうなずいた。
2人で居間に移り、いつもの定位置に座った。
私はタバスキのことを思い出した。
ベンジーはビールの詮を抜くと、片言で「カンパイ」と言って瓶を持ち上げた。
「かんぱい!」
久々のビール。
セネガルへ来たころはゼイヌも含め3人でビールを飲んでいた。
私はいつも全部飲みきれなくて、ゼイヌに飲んでもらっていた。
でも今夜は全部飲む!
「来年まで遠いな。」
ベンジーがつぶやいた。
「あっと言うまだよ。」 そう答えると、ベンジーはソファーから腰を浮かせて、ポケットに手を入れて何かを取り出した。
すると私の腕を引っ張り、手首にビーズのブレスレットをつけてくれた。
「プレゼント。」
日焼けした自分の腕にカラフルなビーズのブレスレットがとてもカワイく、腕の角度を何度も何度も変えて眺めた。
「ありがとう。嬉しい!」 と私は笑ってベンジーの顔を見た。
「その顔が見れて僕の方がもっと嬉しいよ。」 とベンジーも笑った。
「君はリラックスして笑っている方が似合う。」 そう言って、ベンジーはいつものコミカルな表情を作った。
笑ってばかりじゃない旅だったからこそ、今の時間がとても幸せに感じた。
私たちは明け方まで語り続けた。
セネガル最後の夜
翌日、私はお昼過ぎごろまで寝てしまっていた。
ベンジーを探してみたが、彼ははすでに仕事に出かけていた。
私はパッキングのつづきを始めた。
今日の夜、日本へ帰る。
一通りパッキングが落ち着き、私は近所に別れの挨拶を言いに出かけた。
シーベルの門番のおっちゃん、自動車整備場のお兄さん、ジューススタンドのお姉さん、売店のおっちゃん、テーラーのおばさん、そしてビンタの家。
みんな笑顔で「また帰って来てね。」と言って別れを惜しんでくれた。
今となっては、帰るのが寂しい。
暗くなってきたのでアパートに戻ると、そこにベンジーも帰って来た。
「何時にここを出るの?」
「23時。」
「あいつはここに迎えに来るんだよね?」
「うん。」
出発まではまだ少し時間があった。
私は自分の部屋に戻ってベンジーに手紙を書いた。
そして手元に残ってる現地のお金を包んで手紙の中に入れ、いつでも渡せるようにポケットにその手紙をしのばせた。
あと数時間。
もう一度パスポートとチケットを確認して、居間に戻った。
私達はテレビを見ながらゼイヌが来るのを待った。
家を出る時刻が刻々と近づいているのに、ゼイヌはなかなか現れない。
セネガル人のことだから、きっと23時を回ったくらいに現れるに違いない。
飛行機の出発に限ってはセネガルタイムは通用しないのに。
だんだん落ち着いてテレビを見てられなくなってきた。
みんなも口には出さなかったがゼイヌが来ないことを気にしているようだった。
ベンジーは先ほどからチラチラ時計を見ていた。
「もうそろそろ行かなきゃ、乗り遅れるよ。」 とベンジーが立ち上がった。
もう家を出なきゃいけない時間を微妙に過ぎている。
「ヤマ、タクシーを呼んで来い。」
ベンジーがヤマに指示をすると、ヤマが部屋を出て行った。
私はヤマがいつ戻って来てもいいように、スーツケースを廊下に出した。
ベンジーも私の荷物を部屋から出すのを手伝った。
「ニュデム(行こう)。」
タクシーを捕まえたヤマが外から戻ってきて、私のスーツケースを持ち上げ、よろつきながら階段を下りた。
ヤマのジーパンの後ろポケットにはしっかり私のケータイが納まっていた。
ダカール空港へ
タクシーに荷物を乗せ、私たちは路地先の曲がり角を見つめた。
ゼイヌがひょっこり現れるかもしれない。
しばらく待っていたが、ゼイヌは現れなかった。
「もう時間だよ。」
ベンジーはタクシーの後ろ扉を開いてくれた。
ベンジーは私がシートに座るのを見届けると、ドアを閉めて助手席に乗った。
すると、ヤマも慌ててタクシーに乗り込んで来た。
結局、私たちは3人で空港に向かうことになった。
あの盗難以来、結局私たちはゼイヌと顔を会わすことなく帰国を迎えてしまった。
ダカールの空港。
私達はタクシーを降り、スーツケースを引きずりながら空港の入り口まで移動した。
お見送りの人はここまで、というゲートまでたどり着くと私達は改めて別れの挨拶を告げてハグをしあった。
私はポケットにしまってあった手紙をベンジーに渡すと、ベンジーはそれを受け取り、左手を差し出した。
「左手の握手はまた再会できることを意味する。」
私達は左手で握手をした。
「じゃあ、行くね。」
私はベンジーたちに背中を向けて、スーツケースを押した。
私は入り口の職員にパスポートを見せ、空港内に入った。
パスポートをかばんにしまって、しばらく歩いてから振り返って空港の外を見てみると、外にはベンジーとヤマがまだこちらを見て立っていた。
私が手を振ると、2人も手を振った。