ファティマタセネガル物語は2004年にファティマタが経験したノンフィクションストーリーです。
ダンサーとしての焦り
私は気を取り直し、ビンタの家に遊びに行った。
ビンタは大喜びして私を迎え入れてくれた。
そして、2人でベッドの上でくつろぎながらいろんな会話を始めた。
ビンタからある報告があった。
「ねぇ、私言ってなかったよね?!私、セネガルの国立舞踊団に入団したのよ。だから今ではダンスが仕事になったのよ!」
私はそれを聞いて喜んだが、それと同時にダンサーとして急に焦りを感じた。
今を輝いている人を目の前にして、自分がすごく恥ずかしくなった。
彼女はどんどんダンスで輝いているのに、私はセネガルに来て何していたんだろう。
残りの滞在期間、私は心を入れ替えて、時間があればビンタのいるダンスの練習会場へ見学しに行った。
ダンサーの何人かは私が去年に来たことを覚えてくれていた。
やっと、セネガルにいる興奮を取り戻した気がした。
これが本来の私がワクワクするセネガルだった。
今まで寄り道していた時間を取り戻さなきゃ。
毎日、ダンスを見に行くことによって少しずつ彼の存在が記憶の中から遠くなって行った。
あの盗難の一件以来、誰もゼイヌの姿を見てなかった。
そして、誰も私の前ではゼイヌの話をしなくなった。
新しい扉
ある日、ベンジーは私に「一番最初にセネガルに来たきっかけは何?」と突然かしこまった質問をしてきた。
そういえば、そういった身の上話しをまだしていなかった。
私が最初にセネガルに来たのは4年前、在日セネガル人アーティストが企画したセネガルツアーに参加したことだと話した。
そしたら、彼から意外な意見が出て来た。
「君はセネガルツアーをやらないの?」
そんなこと言われても、私に出来るわけがない。
ツアーをするだけのコネがないし。
ましてや、当の本人が思い通りの滞在を果たしてない。
そんな無責任なことできるわけがない。
するとベンジーは続けた。
「ゴール島のペンションだって自由に使っていいし、君にはダンサーの友達がたくさんいる。」
確かに私が見てきた現地のサバールダンス、私がセネガルで知り合った素敵なダンサーたち、それらを日本のダンス仲間たちに見せるチャンスが自分で持てるならすごくやりたい。
そして、私が日本人を連れて来ることで、ベンジーやビンタたちに少しでも恩返しできるなら、これ以上の機会はないかもしれない。
もう、来年からはセネガルに来ることはないと思っていたから、またセネガルに来れる目的が出来たことがすごく嬉しかった。
ベンジーは付け加えた。
「君でもツアーは出来るよ。宿はタダで使っていいしね。」
タダで借りようとは思ってないが、そうだとしてもツアーにかかる費用をかなり安くできる。
安くツアーができるなら、より多くの日本人をセネガルに連れてくることができる。
このチャンスをムダにしたくなかった。
「私、やってみる。」
私がそうベンジーに断言すると、ベンジーはすごく嬉しそうだった。
「僕でよかったらいくらでも君に協力するよ。それに、また君がセネガルに来てくれると言ってくれて本当に良かった。」
ベンジーが私にそう言うと、近くでそれを聞いていたヤマが口を挟んだ。
「私も手伝うよ!!」
セネガルに来て、やっとセネガル人と絆が深まっていく感じを実感した。
感慨深くなっていた私の気持ちをぶち壊すように、ヤマが突然尋ねてきた。
「ねぇ、このケータイ日本で使えないんでしょ?このケータイちょうだい!」
セネガル人は口癖のようにすぐ「ちょうだい。」と言ってくる。
「いいよ。」と口約束だけで実際あげないのも、セネガル人流の断り方のようだが、 私はストレートに「イヤだ」と答えた。
海外で使用できる携帯は購入すると高いのに、簡単にあげられるか。
毎度セネガルに来るたびに何度も買い直したくない。
「じゃあ、来年帰ってくるまで1年貸して。絶対大切に使うから。神に誓います。」
ヤマは空を指さした。
本人が神に誓っても、最終的には「インシャアッラー(神がそれを望むなら)」と結ぶわけだ。
私はセネガル3回目で、そんな簡単に信用してはいけないことをたくさん学習した。
「絶対、絶対、大切に使うから。お願い。」
「絶対?」
「絶対!」
私はしばらく考えた末、賭けに出た。
「いいよ。」
たくさん裏切られたこのセネガルで、信頼という希望の光を見てみたかったから。
帰国間近の昼下がり
長いと思っていたセネガル滞在も、帰国の日が近づいてくると、少しずつ日本への心配がチラつき始めた。
お土産をそろそろ買いに行かなきゃ。
ヤマはまるで自分の物のように、私のケータイをずっといじっていた。
1ヶ月前はゼイノだったが、今はヤマだ。
ケータイをいじるという座をヤマが勝ち取った、という感じにも見えた。
そんなある日の昼下がり、私が居間でテレビを見ていたらベンジーが職場から帰って来て私に言った。
「僕の職場、見学に来ないか?」
ベンジーの職場はアパートのすぐ裏にあるラジオ局だった。
その日はたまたま他の従業員がいなかったため、ベンジーはオフィス内を見学をさせてくれた。
ベンジーは大きなマッキントッシュが置いてあるデスクの前に立つと「これが僕のデスク。」と言って パソコンを立ち上げた。
そしてパソコンが立ち上がると椅子に腰かけ音楽リストを開いて、私に言った。
「どれでも君の好きな曲をプレゼントしてあげるよ。」
いつもコミカルだったベンジーがパソコンを操っているだけで、キリッとしてかっこ良く見えた。
でも私が欲しいと思っているセネガルの音楽はほとんどタイトルが分からなかった。
私はベンジーに自分が欲しい曲を鼻歌で歌って聞かせた。
ベンジーは私の歌を聞くと一緒に歌いながら、リストの中からその曲を探し、私用専用の音楽リストを作ってくれた。
私はベンジーが腰掛けている椅子の背もたれに腕を乗せて、ベンジーの後ろからモニターをのぞき込むように、その作業を見ていた。
「他には?」
ベンジーが振り返った。
知らない間に私はベンジーとかなり接近していた。
しかし、お互いがそのことを意識しながらその状況を楽しんでいた。
そして私達は一緒に鼻歌を歌いながら、ゆっくり1枚のCDを作成していった。
CDが焼きあがると、ベンジーはサインペンで私の名前と自分の名前を書いて私にプレゼントしてくれた。
動画で見るセネガルこんなところ
私たちのツアーのドキュメンタリーがテレビで放映された時の映像。
みんなでテレビのあるおうちに集まってテレビ鑑賞。
それにしても、停電にならなくてよかったぁぁ。