ファティマタセネガル物語は2004年にファティマタが経験したノンフィクションストーリーです。
つかの間の夢
仰向けになっているゼイヌの胸の上。
私はセネガルに来てからいつもこの瞬間を待ち望んでいた。
しかし、その瞬間ベンジーの階段を駆け上がる音が聞こえた。
私は、サッと起き上がり、元の椅子にすばやく戻った。
「お待たせぇぇぇ」 ベンジーは息を切らして、私たちにニコニコ顔でビールを差し出してくれた。
いつも私を励ましてくれるニコニコ。
今日はお休みしててよかったのに・・。
3人はまたビールを飲みながら、穏やかに流れる時間を楽しんだ。
余韻とのギャップ
私はアパートに戻ってからも、ゴール島のテラスでの出来事を思い返していた。
また、あんな風にゼイヌと一緒にいたい。
少し気持ちが大きくなっていた私は、「去年のようにまた一緒にクラブに行きたい。」とゼイヌにおねだりしてみた。
あんなハプニングがあっただけに、ちょっとは期待していた。
しかし彼の答えは前と変わりなくぶっきらぼうに「金がない」だった。
そして続けた。 「カフェドロムっていう高級なクラブがある、そこは綺麗だし最高に楽しい。君と一緒に行きたいけど、金がない。」
そして相も変わらず、ゼイヌはテレビに視線を戻した。
「それって、いくらかかるの?」
私は、またゼイヌが誘ってくれることを期待していた。
「2~3万セファくらいかな。」
今回ばかりは、「私が出しますから、さぁ行きましょう。」という訳には行かない。
彼からお金を返してもらうまでは、お金に困っているフリをしなきゃいけないし、生活の負担は彼がするって言っていたのに、負担らしい負担をまだ見てない。
そういう素敵なクラブのために、日本から勝負服だってちゃんと用意して来た。
私は行きたい気持がMAXになっていた。
しかしここは、自分がお金を出したら負け。
グッとこらえた。
「そんなに高いの? 私もお金ないよ。」とりあえず言い返してみた。
「高くないよ、おまえ日本人だろ。金あるだろ。」
「えっ?」
耳を疑うほどショックだった。
ここで日本人扱いされるのは思ってなかった。
「だって、あなたがお金返してくれないから、無いのよ!!」
私は頑張って言い返した。
「俺なら金はあるよ。ただ、今ここに無い。クラブ行きたいなら貸してよ。ちゃんと返すから。」
「いくら貸して欲しいの?」
口をすべらし、言っちゃいけないセリフを言ってしまった。
彼とクラブへ行きたい気持が強すぎて、自分の意思をうまくコントロールできない。
ゼイヌはぶっきらぼうに言い返した。
「3万セファ(約6000円)。」
3万セファはかなり高い。
ここで簡単に貸したらいつでも金を貸せる女だと思われてしまう。
「クラブがそんな高いわけないし、そんなに貸せないよ。」
「じゃぁ、いくらなら貸せるんだよ」
これは、セネガルでの値段交渉の際によく聞く決まり文句だ。
私は返事に困り、妥当なところで「1万セファ(約2000円)。」と答えてしまった。
「じゃ、1万貸して。」と彼は手を差し出した。
セネガルでは交渉で決定した金額を途中で辞退するのはルール違反。
私は引くにも引けず「んもぅ」という顔で渋々スーツケースから1万セファを取り出し、彼に渡した。
「これは俺のエントランス。おまえのは自分で出せな。」
やられたっ!
ここで抜けぬけと「はい、分かりました。」と言うわけにはいかない。
「お金ないから、私は行けないよ。」
心を鬼にしてそう切り返した。
彼はどう出るか。
ゼイヌは、その1万を握り絞めて立ち上がった。
「じゃあ、俺だけ行って来る。」
あまりの衝撃的な返答に、何も答えられなかった。
彼は大きく伸びをすると、サンダルを引きずる音を立てながら、部屋を出て行ってしまった。
ショックすぎて身動きできなかった。
もういい加減ジェットコースターの様に浮き沈みする自分の気持ちにうんざりしてきた。
この気持ち、一体誰にぶつければいいんだろう。
日本だったら真っ先に女友達に電話して、すぐにでもゼイヌの悪口を言ってスッキリできるのに。
そして「そんな奴やめちゃいなよ。」って言ってもらえる。
でもここセネガルでは愚痴を聞いてくれる友達はいない。
私はテレビの音がする居間へ行った。
ヤマがひとりでテレビを見ていた。
ヤマは私に気がつくと、唐突にも「お腹空いた。500セファ(約100円)くれない?」と言ってきた。
たかが500セファかもしれないが、タイミングがタイミングすぎる。
第一簡単に金くれって言われるたびにイラっとする。
「どいつもこいつも二言目には金くれかよ!」
私は日本語で言い放った。
この気持を誰にぶつけることもできない。
しょうがないよね、私、日本人だから。 こんな最低な国、早く帰ってしまいたい。
動画で見るセネガルこんなところ。
セネガルではなんでもかんでも歌にする。
私の本名(マナ)を連呼して何を歌っているかというと、
「マナはすごいやつだ、これだけすごいやつはいないぞ。」ととにかく褒め称え、
その見返りとしておひねりちょうだいね!という流れ。
ただ「お金ちょうだい。」と言うだけではなく、これ以上ないほど褒めまくってからのおねだりなので、かわいいっちゃかわいいが、何て言ってるかわからないとあまり意味がない。