ファティマタセネガル物語は2004年にファティマタが経験したノンフィクションストーリーです。

ファティマタセネガル物語(1)はこちらから

 

最低最悪のツアー

このすさんだ家で、とりあえずみんなを迎い入れる準備をしなければいけない。

全く気持ちが進まないが、時間は刻一刻と進んでいる。

ワークショップの企画なんてするんじゃなかった。

そんな後悔の念でいっぱいだった。

みんなが来るのは明後日。

みんなが楽しみにしているのが頭に浮かぶ。

 

「申し訳ない。」

 

悔しくて涙が溢れてきた。

 

その日の夜、ヤマが心配して私のところへそっと訪ねて来た。

私は家の人が誰も見てないことを確認して、ヤマを自分の部屋に入れた。

 

ヤマは何がなんでも他の日本人が来る前にベンジーの元を離れるべきだと主張してきた。

今更そんなこと言われても、出来ないからここにいるのに・・・。

 

ここでは、もうだれが味方かわからない。

 

夜も更け、ヤマはそのまま私の部屋で一夜を過ごすことになった。

私は疲れ果て、ヤマとしゃべることもなく眠りについた。

 

0109夜空④

 

 
夜逃げ

何時間経っただろう。

突然、「起きて!」とヤマに体を揺すられた。

 

「今すぐここを出るよ!」

 

ヤマが突然変なことを言っている。

私はおもむろに怪訝な顔をして「はっ?」と返した。

ヤマは唾をゴクっと飲み込むと私にゆっくり話しだした。

 

「たった今、友達から電話があった。今日、友達の家の前の家が空いた。そこは台所には冷蔵庫も食器も揃ってるし、セキュリティもちゃんとしてる。今ベンジーが寝てる間にすぐそこに移ろう。新しい家の大屋には私が事情を説明して値段交渉して安くしてもらうから。移動するなら今しかないよ。このままここにいたらあんたたち日本人、みんな危険な目に合うよ。」

 

私は半信半疑だった。

その家をまだ見たわけではないし、このままヤマの言う通りにしてよいのかも分からない。

ヤマを信用して、また何が起こるかも分からない。

 

だけど考える余地はなかった。

今の状況を回避するには、選択肢はひとつしかない。

まだ夜中だが、日付で言ったらみんなが来るのは明日。

私は言われた通りに行動するしかなかった。

だけど今すぐ引越しすると言っても不可能に近い。

私の荷物は生活しやすいように全部スーツケースから出してあり、部屋の隅から隅に吊してある洗濯ロープにはハンガーに洋服やらタオルがぶら下がっている。

マットの脇にはお化粧しやすいように、鏡と共にコスメ類が並べてあった。

パッキングに時間がかかる私には今すぐ引っ越しなんて絶対無理だ。

これらをスーツケースに片付けるなら夜が明けてしまう。

するとヤマは私の返事を待たずに、ロープにぶら下がっている私の洋服類を片っ端から取り外し、スーツケースに詰め込み始めた。

 

「何やってんの!早くっ!!!」

 

ヤマの掛け声にあおられて、私も部屋に置いてあるものをかき集めてスーツケースにぶち込みはじめた。

とにかく上からガシャガシャスーツケースに詰め込んで行った。

A型の几帳面な私からしたら、見るに耐えないパッキングだ。

 

こんな詰め方でスーツケースに収まるわけがない。

だけど、もう悠長なことは言ってられない。

 

ヤマはマットからシーツを剥ぎ取ってスーツケースに収まりきらない物をその上にガシャっと置いて、風呂敷のように包み出した。

私は収まり悪いスーツケースを上に乗るようにしてフタをしてロックした。

マット脇に置いてあった細々したものをボストンバッグに詰め込んだ。

もう何がなんだか分からなかった。

化粧水の液漏れとか気にしている場合ではなかった。

ビックリするほどあっと言う間に私が来る前の空部屋の状態になった。

 

「後は?」

 

ヤマが尋ねた。

 

「台所に私のまな板と包丁、あとシャワー室にボディソープとか。」

 

だけど、そんな物もうどうでもよかた。

私は部屋の外に出るのが怖かった。

そんな日に限って、ウミは居間で寝ているのだ。

ウミのあの売春婦騒動でベンジーの部屋から締め出され、居間で寝る事を余儀なくされていた。

私たちの部屋の扉を開ければ、すぐそこにウミが横になっている状態だった。

私たちの脱走最中にウミが目を覚ましたら一大事になる。

それこそ、この世の終わりだ。

 

私は恐怖で体がこわばり、手が震えて思うように身動きが取れなかった。

ヤマは忍び足でシャワー室や台所から私の私物をかき集めて来た。

 

「これでしょ?」

 

私はパンパンになったボストンバックにそれらを詰め込んだ。

ヤマは私のスーツケースを持って、足音を立てないように静かに部屋を出た。

そして、横になっているウミの脇をすり抜け家の玄関まで足早に移動した。

私は風呂敷とボストンバックを抱え、その後を付いていった。

自分の心臓の鼓動がドクン、ドクンと全身に響くのが分かった。

震えた足は地に付いている感じがせず、手にかいた汗で持っているものがすべり落ちないか心配だった。 

すでに浅くなっている息を止めて、ウミの寝ている脇をすり抜けた。

 

ファティマタセネガル物語 最終回へつづく