ファティマタセネガル物語は2004年にファティマタが経験したノンフィクションストーリーです。

ファティマタセネガル物語(1)はこちらから

 

変わり果てたウミ

部屋の外でウミの泣く声が静まった。

ヤマはそっとドアを開けて様子を見ると誰もいなくなっていた。

私たちの部屋にいた男はそのタイミングで帰って行った。

私たちは男を見送るとヤマが話し出した。

 

「ウミの名を名乗ってあの男に電話して家に呼び寄せたのは私だよ。」

 

そういうと、得意気になって続けた。

 

「私はあの男に電話した後、すぐにベンジーに電話してこう説明したの。ウミはベンジーが仕事に出てる間、ベンジーの部屋で売春をしてるとね。ベンジーは最初は信じなかったけど、今から男が訪ねて来るから、すぐ家に戻って部屋の中のトイレに隠れててごらんって。それで、ああいう結果になったんだよ。ベンジーは短気だから、男が部屋に入ってウミとしゃべり出したらトイレから出て来てウミに殴りかかったんだろうね。計画どおりだ。」

 

と言って笑った。

私は気が重かった。ヤマがこれだけの仕返しをして、ウミが黙ってるわけない。

しばらくして誰かが私たちの部屋をノックした。

開けてみると、そこには丸坊主になったウミが立っていた。

「どうしたの?」と私がウミの姿を見て尋ねると、ウミは体を震わせながら、「ベンジーにハサミで切られた」と手で頭を覆っていた。

そして小さな声で「スカーフを貸して。」と言ってきた。

ウミはベンジーの部屋を閉め出され、部屋の中に入れない状態だった。

ハサミで髪の毛をまだらに切られて丸坊主なったその姿では恥ずかしくて外に出られない。

私は現地で買った布をウミに渡すと、ウミはその布を頭に巻いて、どこかに出かけてしまった。

 

邪気だらけの家

この家の中がどんどん荒れて行く。

しかも、日本から参加者たちが来るのが2日後に迫っていた。

こんな状況で参加者たちを迎え入れることなんてできない。

ヤマの推測だと、ベンジーは後から来る日本人たちからも金を揺すり取るつもりだ、と。

参加者たちは、初めてのセネガルに胸を踊らせて今ごろ出発の準備をしているだろう。

私も最高のワークショップを企画する予定だった。

でも、こんな状況で楽しいツアーなんてできない。

もう、どうしていいかわからなった。

責任も取れない。

先が真っ暗だった。

ワークショップなんて企画しなければよかった。

今すぐ死んでしまったらどんなに楽だろう。

それしか考えられなかった。

私は絶望感のままフラフラ部屋を出て、公衆電話へ向かった。

 

0109まぶしい月

 

どうにも出来ないのは分かってるけど、母親に電話をかけた。

こんなことで親を心配させたくなかったけど、でも他にどうしていいか分からなかった。

懐かしい日本のトゥルルルルの呼び出し。

 

 

早くお母さんの声が聞きたい。

 

 

母親が電話に出た。

そのとたんウワッと泣き出してしまった。

 

「どうしよう。私、うまくツアーをやる自信ないよぉ。」

 

そんなことを言ってもなにも解決できないことくらい分かっている。

だけど、電話で誰かと話しをしないと不安でどうにかなってしまいそうだった。

母親は落ち着いていた。

 

「大丈夫だよ。神様が付いてるから、諦めないでがんばりなさい。」

 

それ以上何も言わなかった。
私は電話を切り、家へ戻った。

家の中は暗くすさんで見えた。

もうウミの掃除してる姿も歌声もない。

私はこの家で参加者たちが来るのをじっと待ってるしかなかった。

 

セネガルファティマタ物語 第28話へつづく