ファティマタセネガル物語は2004年にファティマタが経験したノンフィクションストーリーです。

ファティマタセネガル物語(1)はこちらから

 

心細い灰色の部屋

夜中になってもゼイヌはまだ帰って来なかった。

騒がしかった居間も、暗がりでテレビを見ているベンジーだけになっていた。

私が居間を覗くと、ベンジーは私の様子を察して、肩をすくめて横に首を振った。

時刻ではもう翌日になっていた。

でもまだ大丈夫。

タバスキまではあと23時間もあるから。

私はそう自分に言い聞かせ部屋に戻り、電気を消してベッドに横になった。

目を閉じるといろんな不安が込み上げ、涙が溢れてきた。

残りの1ヶ月間もこんなに不安な生活を送らないといけないのか。

日本に帰ったら仕事探さなきゃだよな。

新しい仕事に慣れるまでまた大変だよな。

私、なんでセネガルにいるんだろう。

鼻が詰まって息苦しい。

真っ暗な部屋の中、手探りでティッシュを探し、ブーンと鼻をかんだ。

明日になればきっと何かが変わっているかもしれない。

そして眠りについた。

いろんな夢を見た。

ゼイヌと一緒にチェスに向かう途中いろんな忘れ物をする。

焦って目を覚ました。

すぐ隣を見たがやはり彼の姿はなかった。

気がつくと、暗い部屋の中には窓から光が差し込んでいた。

 

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朝が来た。

台所から卵が焼けるいいの匂いがする。

ベンジーの妹のカディが朝食にスクランブルエッグを作っていた。

カディはこれから仕事に行くといった装いで、しっかりメイクもして長いブレーズを後ろで結わいていた。

彼女はベンジーと違ってとてもクールだった。

私は彼女に挨拶をすると、わざと元気の無い顔を見せた。

強い女性からのエールが欲しかったから。

カディはコロコロに焼き上がったスクランブルエッグをお皿に分けながら言った。

「セネガルでは涙を人に見せることは恥ずかしいことだからね。」

まるで私はカディに渇を入れられたようだった。

恋に盲目になった日本人が勝手に転がり込んできて、ただでさえ彼らに迷惑をかけているのに、傷心を慰めてもらおうなんて虫のいい話かもしれない。

ここは我慢しないといけない。

涙は見せちゃいけない。

そんな私の沈んだ気持ちとは打って変わって、明日のタバスキでセネガルは町中浮かれモードになっていた。

テレビのニュースでもその話題で持ち切りになっている。

刻一刻とタバスキが近づいてくる。

でもまだ午前中。

ゼイヌが今から駆け込んで帰って来ても、急いでチェスに向かえばタバスキには間に合う時間。

セネガル人は人を散々待たせておいて、急にせかす所があり、たまにそういう行動にイラっとする。

ゼイヌもきっとそのパターンだ。

突然帰って来て、準備する時間もくれず「行くぞ!」と言って来るかもしれない。

私はお泊りセットとイェレオロフをバッグに詰めた。

そしてゼイヌが来るまでの間、近所をグルーっと散歩することにした。

ゼイヌはその辺にいるかもしれない。

外を歩いていると名前の知らない顔見知りのご近所さんたちが、次々に声をかけてくる。

そのたびに立ち止まっておしゃべりした。

きっと今ごろゼイヌが慌ててアパートに戻って来て、私が外出していることにヤキモキしているかもしれない。

そんなことを期待しながら立ち話を楽しんだ。

ゴミ処理屋のおっちゃんも、自動車整備工場のお兄さんもみんないつものように私を引き止める。

仕事中なのか休憩中なのか、いつ見ても分からない。

 

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そうやっていつものご近所ツアーが終わり、アパートに戻った。

すこし期待をしながらドアを開けた。

 

やっぱりゼイヌは戻ってなかった。

もうすぐ午前中が終わってしまう。

私はため息をついてバタっとベッドに横になった。

 

何時間経っただろう、気が付いたら眠ってしまっていた。

お腹が空いている。

気づくと太陽の光が斜めに射していた。

 

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一体、ゼイヌとユッスーの約束はどうなってるんだ。

もしかして、チェスってすごい近いのかな。

 

そこへヤマが私の部屋に入って来た。

 

「金はないよ。」と私が先に言うと、

 

「そんなことで来たんじゃないよ。」とヤマは舌打ちしてベッドに座った。

 

今日ばかりは、ヤマの存在がやけにありがたい。

私はヤマに小銭を渡し「2人分のサンドイッチを買ってきて」とお願いした。

「誰の分?」とヤマが聞いてきた。

私は自分とヤマを指さすと、ヤマはニコっと笑って走ってサンドイッチを買いに行った。

 

いつもなら夜遅くまでいるヤマも明日タバスキだからと、早々と帰った。

あと何時間かで、タバスキ。

たくさんの人から招待されたタバスキ。

だけど、今私は灰色の部屋で一人で迎えようとしている。

昼寝したせいで、目が冴える。

夜になるとまた涙が出てくる。

今日は泣いちゃダメな日。

明日はイェレオロフを着なきゃいけないのに、目が腫れてたら台無し。

私は感情を無にする練習をした。

無にすると涙がピタっと止まる。

でも3秒後には溢れてくる。

「タバスキなんてクソ喰らえ。」

つい気を抜いてしまったせいでウワっと泣いてしまった。

そういえば、去年もセネガルで泣いた。

すごく信用していた友人が私に嘘をついていたことが分かった時。

その時、傷ついていた私の話を優しく聞いてくれたのが、シーベルのお兄さん、ゼイヌだった。

今度はゼイヌのことで泣いている。

なんで学習できないんだろう。

なんで平気で人を信じるんだろう。

本気で私、バカだ。

大バカ・・・・。

日本人がバカ正直なら、セネガルは大嘘つきだね。

気が付くと、0時を迎えタバスキの日付に変わっていた。

治まりかけた感情がまた爆発して泣きじゃくった。

セネガルなんて来なきゃ良かった。

 

 

ファティマタセネガル物語 第17話へつづく

 

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