ファティマタセネガル物語は2004年にファティマタが経験したノンフィクションストーリーです。
不可解な請求
それが引き金になってか、冷蔵庫が壊れたり、蛍光灯が切れたり、ちょっとしたことでも、ウミを通してベンジーからの請求が横行するようになった。
ツアーが始まる前から不明瞭な請求が続いた。
日本人たちが借りるからという理由でこの家の細かい修理代まで払わせられた。
しかも、主人のベンジーはそういう時には姿を出さない。
ウミは毎回、申し訳なさそうな顔をして私に請求してきた。
納得行かない請求に、もう金銭的にも気持的にも限界だった。
私は思い切ってベンジーの部屋へ押しかけようとしたが、ウミが止めた。
「ベンジーは頭がおかしいから近づかない方がいいわ。」
ベンジーのことなら心配いらないから、とウミは私をなだめてくれた。
それから何の変わりばえのない平穏な日が続いた。
ベンジーの部屋が開くたび、モワっとマリファナの匂いが漂うことはあったが、特にそれが原因で何か迷惑を被るようなことはなかった。
ウミは歌いながら掃除し、ヤマはケータイをいじりながらラジオを聞き、ベンジーは時間になれば仕事で外に出ていた。
この一見何も変わらない平穏な日々がこのまま続けば、ワークショップは無事に開催できる。
私はこれ以上、この家で何も起こらないことを願った。
突然の暴行事件
翌朝、ドアが勢いよく開くものすごい音で目を覚ました。
ベンジーがすごく興奮して、私たちの部屋に入ってきた。
「起きろ!」
ベンジーは叫び、ものすごい勢いでヤマを蹴飛ばした。
ヤマはビックリして起き上がった。
ベンジーはヤマに怒鳴りながら、胸ぐらを掴み、ヤマを引き寄せるとものすごい剣幕で殴る蹴るの暴行を加えた。
突然の出来事に、私は何が起こっているのかさっぱり分からなかった。
ヤマも突然のことにビックリしてやられるがままだった。
ベンジーの興奮は収まらない。
そして、何度も何度もヤマに殴りかかった。
私は必死で「やめて」と止めにかかったが、ベンジーには聞こえなかった。
その形相は、去年見ていたベンジーとはまるで別人だった。
息は荒く、目は充血してむき出し、瞳孔が開いている。
ベンジーはヤマのえりぐりを掴みながら居間へ引きずり出した。
そしてヤマへ顔を近づけると何か言い放って、ヤマを突き放した。
そして、私の方を振り返って言った。
「お前は許してやる。でもヤマは許さん。」
そして、ベンジーは息を切らしながら自分の部屋に戻って行った。
ヤマは震えていた。
私が「大丈夫?」と駆け寄ると、ヤマは涙を拭きながら「ベンジーは頭が狂ってる。」と言って、話を続けようとしたが、恐怖と怒りの過呼吸状態で、話を続けられる状態ではなかった。
しばらくして呼吸が落ち着くとヤマは深呼吸し説明しはじめた。
「ベンジーは私たちがレズビアンだと言ってるのよ。」
「ハッ?」
私にはヤマがそう説明しているように聞こえた。
何度も聞き返したが、やはりそのようだった。
私とヤマがレズ・・・。
どこからそんな話が。
まず、私はレズじゃないし、仮にレズだとしても、第三者から暴行を加えられるようなことじゃない。
ヤマは続けた。
「毎晩、あの部屋で私たちがやましいことをしてるって。」
あんな暴行事件がなければ、大笑いしているところだ。
だけど、ヤマは涙をぬぐいながらそう話している。
「私は、もうあの部屋には泊まれない。ベンジーから追い出されたから。」
ヤマはそう言うと、私の部屋に戻り、小さいリュックに自分の荷物をまとめて出て行く準備をした。
不可解すぎる。
レズに対してベンジーが切れたとしたら、同性愛者がイスラム教で禁じられているからなのか。
そもそも、私たちがレズという発想はどこから来たのか? 考えれば考えるほど、まったく意味が分からない。
ウミの裏切り
すぐに、私はベンジーに呼ばれた。
ベンジーの部屋に入ると、うつむいてウミがベッドに座っていた。
私が部屋の中に入ると、ベンジーが不気味な笑みを浮かべ、「昨日の晩はさぞかし楽しかったようだなぁ」と私に言った。
なんのことだかさっぱり分からなかった。
「ウミとの夜はどうだった?気持良かったか?」
ベンジーの問いに驚いて、私はとっさに「はっ?」と答えた。
ベンジーのその発言にもビックリしたが、その隣で反論しないで黙って聞いているウミにも驚いた。
「俺の女にまで手を出すとは、許さんぞ。」
許すも何も、私はウミとはしゃべることはあっても、ベンジーを怒らせるようなことは何もしてない。
私は、思い当たる否定の言葉を羅列し、全否定を全身で主張した。
すると、ベンジーがウミに尋ねた。
「ウミ、お前はこいつにどんなことされたんだ?俺に言ってみろ。」
すると、ウミがやっと口を開いた。
「彼女たちにレイプされました。」