ファティマタセネガル物語

ファティマタセネガル物語(14)〜何度も大嫌いになった第二の故郷〜

ファティマタセネガル物語は2004年にファティマタが経験したノンフィクションストーリーです。

ファティマタセネガル物語(1)はこちらから

 

タバスキという特別な行事

翌朝、目を覚ますとゼイヌがいつもの様に横で寝ていた。

いつ帰って来たんだろう。

私は彼を見ながら、ユッスーの言葉やテラスにいた時のゼイヌの表情、昨日の言動などを思い起こした。

どのゼイヌが本当なんだろう。

考えすぎるとため息ばかりでてしまう。

今日も一日そんなことばかり考えて過ごしてしまうのか、そう思っただけで気が滅入る。

私は気晴らしに去年お世話になった人たちへお土産を渡しに行くことにした。

去年住んでいたアパートの隣人の人々、レッスンに行く途中のジューススタンドのお姉さん、売店のおじさん、バス乗り場のお兄さん、それにダンサーのビンタにも会いたい。

みんな元気かな。

1年ぶりに会う友達たち。

 

私を見るとみんな驚いてこれ以上ないほどの表情で大喜びして迎えてくれた。

セネガルではもうすぐタバスキという行事が控えていた。

タバスキはイスラム暦で言うお正月。

年に1度、各家庭で羊を1頭殺し、その肉をバーベキューにして食べて祝う。

その日ためにみんな新しい服を仕立てて着飾る。

セネガルはアフリカの中でも1番オシャレな国と言われているぐらいだから、新しく新調する服への意気込みは半端ない。

懐かしいみんなにお土産を持って訪問すると、かならずタバスキの話しになった。

「今年のタバスキはどうやって過ごすの?」 何も予定してない私は「うーん」と首を傾げて「別にぃ」と答えた。

すると、ほとんどの人が「招待するからうちに来なさい!」と言ってくれた。

彼達は、この特別の日に何も予定がない私を可愛そうだと思ったのかもしれない。

セネガルにはテランガという助け合いの精神が根付いていて、困っている人を見れば、そこに身分の違いがあったとしても分け与える習慣がある。

その代表的な例が食事をもてなすことだった。

彼らのお誘いはとても嬉しかった。

だけど、どのお誘いにもハッキリOKができなかった。

私はまだ肝心な人から誘われていない。

 

 

私は最後に、ビンタに会いに行った。

ビンタも私との一年ぶりの再会にものすごく喜んでくれた。

私はビンタの家にしばらくお邪魔して、彼女といろんなおしゃべりをした。

歳もそんなに離れてないし、同じダンサー仲間として話しが弾んだ。

文化や習慣が違っても女子として共感できる話題がたくさんあったことが嬉しかった。

そしてビンタも私にタバスキはどう過ごすのか尋ね来た。

ビンタだけには正直なことを話した。

一番一緒に過ごしたいゼイヌからのお誘いを待っているのだ、と。

ビンタは「そのうち言って来るわよ。」と私を励ましてくれた。

 

世界で一着のドレスを作るためにアシュラム市場へ。

「イェレオロフはあるの?」突然、ビンタは尋ねてきた。

イェレオロフとは、セネガルの伝統的な正装服。

正装服といっても最近ではゴージャスな刺繍やラメやスパンコールがあしらわれているドレスの様なものが多い。

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私はイェレオロフは持ってなかった。

というより、飾り気のないヤマと普段一緒にいるせいか、セネガル人女性のオシャレ情報に乏しい環境にいた。

せっかくセネガルにいるのだし、私も自分のイェレウォロフを作りたい。

私はオシャレなビンタにショッピングを付き合ってもらうことにした。

 

「ゼイヌと一緒にタバスキを過ごすなら、とっておきのイェレオロフを作らなきゃね。」とビンタ。

 

 

やっぱり持つべきものは、女友達。

 

ビンタとショッピング行けることを考えたら昨日のストレスも一気に吹っ飛んだ。

早速私たちは、イェレオロフを仕立てるための布を探しにアシュラム市場に出発した。

 

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アシュラム市場はタバスキ前のセールで賑わっていた。

布も普段より安い価格で叩き売りしている。

「荷物をしっかり持つのよ。」と、ビンタは険しい顔になり、私を人目から守るように歩いた。

いくら治安がよいセネガルでも、人がごった返す市場のような場所はスリや引ったくりも多発する。

あまりの布の多さに次から次と目移りしてしまう。

外国人である私を見かけると商人たちは、「マダム、マダム」と寄って来る。

どんなに断っても、手に持っている物を次から次へと広げて行く手を阻む。

ちょっとでも「おっ?」という興味の顔を見せると、「はい、お買い上げぇ~」と言わんばかりに私の懐に押し付ける。

ビンタは「欲しいの?欲しくないの?」と私に聞き、私が「欲しくない」と答えると、彼達をすごい剣幕で見事に追っ払ってくれる。

セネガル人の女は強い。

そんな道中、次から次と目に入る色鮮やかなセネガルの布は、もうひとつに絞ることができなかった。

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とっておきの1枚を選ぶのに、行ったりまた戻ったり。

店の店主も「また来たの」という呆れ顔をした。

 

 

いろいろ迷ったが、私は白地にオレンジの刺繍が入っている布を購入した。

その布を、テーラーに持って行き、仕立ててもらう。

自分の横をステキな女性が通り過ぎる度に彼女たちが着ている服に目が行った。

私は待ちきれず、買った布を袋から出しては眺め、出しては眺めを繰り返し、しまいには自分の胸元から下へ垂らし、足をぴょこっと蹴ってイェレオロフを着ている自分をイメージした。

ビンタが「似合ってるよ」と言ってくれた。

これを着たらゼイヌもビックリするかな?

私を見て、ヒューと口笛を吹いて見とれてる姿をイメージした。

私たちはテーラーに到着すると、私は市場ですれ違ったステキな女性のイェレオロフのデザインを思い出し、それと同じものを紙に書いた。

テーラーはそれを見て、任せて!と言わんばかりに得意気にうなずいた。

楽しみでしょうがなかった。 世界で一着しかない私だけのイェレオロフ。

私はビンタにお礼を言ってアパートに戻った。

 

ユッスーからのタバスキのご招待

部屋に入るとユッスーが遊びに来ていた。

ユッスーはゼイヌとベッドに腰掛け話しこんでいた。

私が近づくと、ユッスーは両手を大きく開いて「おぉ、会いたかったよぉ」と私の手を握った。

彼はいつも優しく接してくれる。

そして、ユッスーからとてもうれしい申し入れがあった。

 

「タバスキにコイツと二人でチェスに遊びに来ないか?二人が遊びに来たら、俺の家族もみんな喜ぶよ。」

 

超うれしい!

 

私は飛び上がって「行く!行く!」と答え、横に座っているゼイヌを見た。

ゼイヌは笑って「いいね」と答えた。

私は我慢仕切れずについイェレオロフを作っていることを二人に話してしまった。

「君はもうセネガル人だね。」とユッスーが笑ってくれた。

ひょんなキッカケでタバスキがゼイヌとの初旅行になった。

そしたら彼としっかり向き合って話す時間もたくさんできる。

 

たいへんだ、セネガルのマナーを勉強しなきゃ。

勝手に、彼氏の家族のところへお泊りに行く感覚になっていた。

 

ユッスーが「そろそろ帰るわ」、と立ち上がった。

それを引き止めるように「もうちょっといろよ。」とゼイヌも立ち上がった。

このやり取りはセネガルの別れ際の定番の挨拶。

「もうちょっといろよ。」といいながら玄関までお見送りをする。

セネガルでは社交辞令のような建前の挨拶が非常に多い。

彼らが表に出るとそれと入れ替わるようにヤマが大きなあくびをしながら私の部屋に入って来た。

ヤマと挨拶を交わすと、なにか言いづらそうに私に小声で言った。

 

「私、タバスキで着る服がないの。」

 

ヤマもイェレオロフ着るんだ! 

私はその意外性に驚いた。

不良娘だから「タバスキがなんだよ」とタバコでも吸っているものだと思っていた。

 

「で?」

 

私はとぼけた。

 

「服を買うお金がない。」

 

「だから?」

 

意味が通じないフリをした。

 

「お金貸して。」

 

たいてい、セネガル人の「貸して」は返って来ない。

そろそろガイドブックにそう書いて欲しい。

さっきまで上がっていたテンションが急に下がり、なんか急にムナクソ悪い感情が沸き上がって来た。

断るセリフをウォロフ語で考えるのも面倒くさい。

私は超ぶっちょう面で1万セファ(約2000円)をヤマに投げ付けた。

ヤマはそれを受け取ると満面の笑みで私に何回も「ありがとう」と言った。

そんなに笑顔を出されると、私がまるで小さい人間のように思えて、さらに落ち込む。

 

どうすれば、早くセネガル文化に馴染めるんだろう。

ヤマは「タバスキはうちへ来てね、招待するから」と言って、部屋を出て行った。

なんだ、ヤマにも招待できるような素敵な家があるんじゃん。

なんだか私は急に寂しくなった。

 

日本が恋しい。

 

日本語が恋しい。

 

そして、私はインターネットをしにゼイヌのいないシーベルへ向かった。

 

ファティマタセネガル物語 第15話へつづく。

 

動画で見るセネガルこんなところ。

路上で行われるダンスパーティーで飛び入りで踊る、ダンスの師匠パムサ。
ジーパンで踊ろうと、そのダンスは軽快かつダイナミック。

 

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